ホームで電車を待つ間に英語のさび落とし。クリスときたらしゃべれる日本語は「やま」と「かわ」、「ひろしま」だけ。
忍者の暗号じゃないんだから、おばあちゃんもっと孫にちゃんと教えておいてくださいよ。
冗談みたいなことになってきたぞ。
そもそもいったい彼女は何を探していて、本当にそれは聖蹟桜ヶ丘にあるのだろうか。
わたし「もう少し詳しく探してるものを教えてよ、クリス」
クリス「ええ、人形を探してるんです。小さくて、かわいくて、着せ替えができる人形。秋葉原で売ってるっていうんですけれど、このあたりでもあるかなと思って」
「着せ替え? じゃあ日本人形というより、バービー人形みたいなものかな。彼氏にそんなかわいいお人形をあげるわけ?」
「うーん、正確にはバービーじゃないわ。お人形っていうとちょっと違うかも。子ども用の人形じゃなくて、もうちょっとセクシーなお人形なのよね。アニメの主人公がポーズ取ってるようなの、あるでしょ。」
…ええと、それは人形っていうか、いわゆるフィギュアじゃないかな。
なんだかとんでもない探索行になってきた。
そういう人形となると京王デパートには売っていないし、わたしも知らない。聖蹟桜ヶ丘についたら京王グループの東急ハンズ的存在である京王アートマンに足を向けて、恥も外聞もなく聞いてみる。
あら、遠藤さんはそういう趣味おありなの? と思ったかどうか知らないけれど教えてくれた顔見知りの店員さんに従って3Fへ。ものめずらしげなクリスと歩くこと10分。一角にそういうエリアをついに発見。
がぜん目を輝かせるクリス。
「これよ、これ!ありがとチヒロ」
ショップの店員さんは日本のフィギュア文化がアメリカでこれほどポピュラーになっている事実に感銘したらしく、業界の特徴やこだわりを丁寧に教えてくれた。
着せ替えをご要望とのことだが、ここで扱っているものは着せ替えができない。なぜならそれはひとによって趣味が異なるからであり、上級者になると完全カスタムメイドの世界なのだという。
店員さんは早く通訳して、と目で私をせかす。
そんな単語知らないよ、とぼやきながら話してやるとさもありなんと感慨深げにうなづくクリス(と店員さん)。
セーラー服姿のフィギュアを手にしたまま、しばらく三人のやり取りが続き、20分後にご満悦のクリス(と店員さん)を残してお役ごめんとなった。
朝から予想外の展開を見せたビューティフルサンデーだったが、奥様方から頼まれた日本人形探しは、ずいぶん趣の違うことになっていました。
一つ分かったこと。
フジヤマ、キモノ、といった伝統的な日本のイメージは、若い世代に通じなくなっているのかもしれません。
ステレオタイプな日本像を越えて日米の相互理解が進んでいるというのは喜ばしいことです。
一昔前ならアメリカと言えば、ハンバーガーと摩天楼。
オーストラリアと言えばコアラとカンガルー…。私たちは時として相手のイメージをぼんやりと掴み、それに満足してしまいます。
それ以上知る必要もないと言わんばかりの。
しかし例えばラッキーカントリーと呼ばれるオーストラリアにも若者の雇用問題があり、観光不況の中で移民と白人たちとの紛争が浮き彫りになりつつあります。お得意様の日本の不況はかの国の観光不況に一役買っていますし、若年層の雇用問題は範を見ることができるかもしれません。 オーストラリアの第二外国語で、一番多く選択されているのは日本語だって言う事実、ご存知でしたか。
ステレオタイプなイメージを抜け出すことで、経済的結びつき以上のものが得られるのだと思います。
クリスとのお土産騒動は、思い込みやステレオタイプなイメージだけじゃ足元をすくわれるぞと改めて私に思い返させてくれました。
それにしても日本に人形を買いに来るというのは、そういうこともあるんですね。
ジャパン・クール(日本はかっこいい)とはこのことでしょうか。
みなさんもよい一週間を。